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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)2526号 判決 1954年1月28日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人北川貞二の弁護人石浜美春の上告趣意について。

所論は、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らないし、また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとも認められない。

被告人福田与の弁護人滝川正澄の上告趣意第一点について。

刑訴法が訴因及びその変更手続を定めた趣旨は、審理の対象、範囲を明確にして被告人の防御に不利益を与えないためと解されるから、裁判所は、審理の経過に鑑み、被告人の防御に実質的な不利益を生ずる虞がないものと認めるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因の変更をしなくても訴因と異る事実を認定しても差支えないものであることは、当法廷の判例とするところである。(昭和二六年(あ)第二九八七号同二九年一月二一日言渡判決参照)。そして、本件では、被告人が相被告人北川貞二等と共謀の上貿易等臨時措置令違反並びに関税法違反の行為をしたという起訴事実に対し、原一、二審判決は、訴因変更の手続を執らないで同幇助の事実を認定したものであって、被告人は、第一審の公判廷で、知情の点を除いて幇助の事実を自認したものである。

されば、原一、二審の右措置は、その審理の経過に鑑み被告人の防御に何等実質的な不利益を及ぼすものとは認められないから、所論は、採用できない。

同第二点について。

本件貿易等臨時措置令違反の公訴事実は、判示物品を密輸入しようとした事実であり、また、本件関税法違反の公訴事実は、判示関税の逋脱を図った事実であって、その公訴事実を異にするものと解するのが相当である。されば、所論判例違反の主張は、既にその前提において採用し難い。

よって、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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